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世界最古のパンとその後(part2)

だが、スイスのヌーシャテル近郊のモンミライユ遺跡で、これまでに知られる最古の発酵パンのかけらが複数見つかっている。年代は前3719年から3699年のあいだである。もうひとつ、ビエンヌ湖に近いドゥアンで発見されたパンは、丸ごと一個が完璧に保存されていた。細かくひかれ、ふるいにかけられた小麦粉と、酵母から、このパンが作られたのは前3560から3530年の間であると判明した。丸くふくらんだパンは窯で焼かれ、現在のパンとそっくりである。

「パンの形とつくりからいって、いまもアルプス地方、とくにヴァレー州に存在している発酵したパンと変わらないようである」

パンを分析したマックス・ヴァーレンがこう書いてある。同遺跡では、大麦のパンと、粥をつくるためにひき割りされた穀物も見つかっている。

ドゥアンのパンは天然酵母(残った生地を発酵させて種にする方法)で発酵しているようだ。前日の酸っぱくなった生地のかけらを再利用して、新たに焼くパンに種をつけたか、あるいは先述したように、練り桶の削りくずで生地を作ったのである。ギリシア人とローマ人は、ワイン用のブドウ果汁をベースにした発酵剤を使っていた。プリニウスはそのつくり方を伝えている。

“キビはおもにパン種として使われる。ブドウの搾り汁でこねたものは、一年間もつ。上質な小麦粒のフスマでもパン種がつくれる。このフスマを三日たった白ブドウの搾り汁でこね、天日で乾燥させ、小さな練り粉の形にしたものを水で伸ばしてパンをつくる。この種のパン種はブドウの収穫期でなければ作れない。だが、大麦と水のパン種はいつでも好きな季節につくれる。それが重さ二リブラの塊をつくり、高温の炉か、灰と炭火の上に置いた陶器の皿で焼く。こんがりきつね色に焼けたら、酸っぱくなるまで壺に入れておく。そうやってできたパン種を水でのばして使用する。”

彼らは経験上、ブドウの皮の表面に付着している微生物フローラにサッカロミセス・セレビシエが含まれているち気づいたのである。それはまぎれもなくビール酵母、つまりイーストであった。だが天然酵母も使われていた

いまは粉そのものでパン種がつくられている。粉をこねて塩を加え、粥状になるまで煮たものを、酸っぱくなるまでねかせておく。だが普通は、煮ることもしない。前日の材料をとっておき、それを使うだけですませる。

プリニウスは以上のように付け加えている。最後の方法は、十八世紀までヨーロッパのすべてのパン屋に採用され、こんにち再び見直されている。ケルト人は、発酵桶からビール酵母を採取して使っていた。プリニウスはケルトの軽いパンを絶賛している。「ガリアとイスパニアでは、かの地に育つ麦で飲み物をつくり、凝固した酵母をパン種にしている。だからこの地のパンはよそのものより軽いのである」

ビール酵母の技術はキリスト教が広まってから消滅したが、ビールがずっと自家用に醸造されてきたゲルマン諸国は別だった。十七世紀にアンリ四世とマリー・ド・メディシスが結婚したとき、その技術がフランスで復活したが、そのことは論争を巻き起こすにはいられなかった。ビール酵母を使用することはパンの衛生上、問題があるとされ、そのような酵母を使用しないよう、医学アカデミーが勧告するほどだった。ビール酵母を使用したパンは「ふんわりしたパン」とか「女王風のパン」などと呼ばれた。天然酵母でつくる伝統的なパンより白く、ふっくらとしたパンは、干からびるのも早かった。より密度が高く、酸味があって白いパンにたいし、こちらは贅沢なパンとみなされた。

パンづくりは古代からほとんど変化しておらず、二十一世紀になっても4000年前と同じやり方でパンが作られている。天然酵母も、イーストの使用も、パンの種類も、なにひとつ変わっていない。丸いパン、長いパン、型に入れてつくるパン、さまざまな穀物を単独ないしは混ぜ合わせてつくるパン、平たいパンやふくらんだパン、詰めものをしたパン、ロールパン、種子や果実の入ったパン、油脂や蜂蜜を加えたパンなど、ありとあらゆるパンがすでに存在していた。唯一の技術革新は機材に関するもの、電動混捏機や温度自動調節機能つきの発酵室といったところである。

ブリオッシュも4000年前に存在していた。「卵やミルク、さらにはバターを加えて(パンを)こねる者もいる。こういったことを考え出すのも、平和な国ならでは、である。国が平和になれば、人はさまざまな種類のパンをつくることに気を回せるようになる」プリニウスはその百科事典的書物に現存するすべてのパンを記載するのをあきらめている。

伝統的に北はイースト、南は天然酵母でつくられるヨーロッパのパンや菓子パンから、マグレブや中東の平パンまで、世界には多種多様なパンがあり、私たちはそれ以上のパンをつくれないだろう。パンは数千年前からインドや中央アジアに広まり、そこにも平パンやふくらんだパン、時にはチーズや肉をはさんだり詰めたりしたパンなど、じつにさまざまなパンがある。パンづくりは中国にも伝わり、イーストを使ってふくらませたパンの多くが蒸されている。最近では日本でも、非常に柔らかい独特なパンがつくられている。アメリカ大陸でも入植者たちが、サンフランシスコの天然酵母パン、ボストンのパン、ハンバーガー用の小さな丸パンといった、アメリカ独自のパン文化を作り上げたのである。

「発酵食の歴史」2019 マリー=クレール・フレデリック P187

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